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デュアルブランド戦略による棚割り営業。増加するプライベートブランド比率にメーカーはどう対応するか-GDGマガジン

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2025.07.05

デュアルブランド戦略による棚割り営業。増加するプライベートブランド比率にメーカーはどう対応するか

GDGマガジン|中堅/中小企業経営者のためのビジネスメディア

プライベートブランド(PB)の成長は著しく、もはや単なる安い商品ではありません。中小企業メーカーが実施する小売業との本部商談でも、PBに関する商談は避けて通れなくなってきています。

この記事では、プライベートブランド(PB)、ナショナルブランド(NB)、そして留型やダブルチョップといったブランド形態を解説しています。

1. プライベートブランド(PB) とは?

プライベートブランド(PB)とは、小売業者や流通業者が独自に企画・開発し、自社のブランド名で販売する商品のことです。かつては低価格商品として認識されることがメインでしたが、現在では品質やデザインにこだわった高付加価値商品も多く登場しています。

プライベートブランド(PB)の例

イオングループ「トップバリュ」

日本のPBの草分け的存在。

多様なニーズに対応するブランドを展開し、2024年2月期には売上高1兆円を突破

セブンイレブン「セブンプレミアム」

高品質志向の商品が多く、「金の〜」シリーズなどで知られています。

西友「みなさまのお墨付き」

お客様の評価を商品開発に反映させるユニークな取り組みが特徴です。

マツモトキヨシ「matsukiyo」

ドラッグストア業界でのPB成功事例として、日用品や化粧品で数々のヒット商品。

小売業から見たPBのメリット・デメリット

PBは、ナショナルブランド (NB) 商品と比較して高い利益率を確保しやすい構造にあります。

メーカーのNB商品の価格には、開発費や大規模な広告宣伝費、そして卸売業者を介すための中間マージンなどが含まれています。PBは、理屈上は、広告宣伝費も不要であり、場合によってはメーカーから直接のセンター納品などを通じて物流費を低減させることも検討可能です。自社で価格を決定できるため、柔軟な価格戦略をとれることも強みです。さらには、全国チェーンの場合、相応のボリュームでの一括発注が可能となるため、価格交渉力が増大する点も、調達価格の低減に寄与しています。

また、小売業は、有名なNB商品のみの取り扱いでは、差別化が難しい側面もあります。お客様から見た場合、他のお店でも買えてしまうことから、結果として、価格勝負になりがちです。

一方で、PB商品は、その小売業者でしか購入できない商品です。消費者がそのPB商品を気に入れば、目的買いという来店動機に繋がります。そのため、品質やデザイン性に優れた魅力的なPB商品を開発・育成することは、競合他社との強力な差別化となり、顧客の囲い込み、すなわちストア・ロイヤリティの向上に大きく貢献します。

さらに、小売業は、POSデータなどを通じて、どのようなお客様が、いつ、何を、どのように購入しているかという詳細な購買データを直接保有しています。このデータを商品開発に活かすことで、消費者の潜在的なニーズやトレンドを迅速に捉え、的確に商品化することが可能です。

一方のリスクとしては、生産数量を仕切って発注する際、商品が計画通りに売れなかった場合には、その在庫はすべて小売業者が抱えることになります。これは、都度発注が可能なNBとの大きな違いです。
また、例えば売れ筋のNBをベンチマークにして、低価格PBを生産した場合、売上数量が変わらなければ、カテゴリーの売上高や値入の総額は低下することにもなりかねません。

メリット:

競合店との差別化

高い利益率の確保

お客様ニーズの迅速な反映

ブランドロイヤルティの向上

価格コントロールの自由度

デメリット

品質管理・お客様対応の責任

過剰在庫リスク、初期投資が大きい

ブランド構築に時間とコストがかかる

メーカーから見たPB受託生産 (OEM)のメリット・デメリット

メーカーが小売業のPBを受託生産する場合、安定的な生産量や新たな販路の確保といったメリットがある一方で、自社ブランドの成長機会を逸する可能性や、品質責任の一端を担うリスクも存在します。

メリット

生産量と売上の向上

生産工場の稼働率向上

新たな販路開拓

技術力や生産能力のアピール

デメリット:

自社ブランド売上の低減や育成の優先順位が下がる可能性

製造委託契約による制約

品質問題発生時の影響

小売業の意向に左右される

2. ナショナルブランド(NB)とは?

ナショナルブランド (NB) とは、「National Brand」の略称で、大手メーカーが自社名や商品ブランド名を付け、全国規模で展開する商品のことを指します。

NBは知名度とブランド力を確立していることも多く、メーカーが時間と労力をかけて築き上げた信頼の象徴でもあります。

ナショナルブランドの例:

伊藤園:「お〜いお茶」

アサヒビール:「アサヒスーパードライ」

日清食品:「カップヌードル」

メーカーから見たNBのメリット・デメリット

メリット:

高いブランド認知度とお客様からの信頼

自社に帰属する「商標としての権利」

特定チャネルや店舗に限らない、全国規模での販売可能性

大規模な広告宣伝活動による販売促進

商品開発・品質保証における主導権

デメリット:

開発・製造・広告・流通にわたる多大なコスト

競合他社との激しい競争

3. ストアブランド(SB)とは?PBとの違いは?

ストアブランド(SB)とは、ナショナルブランドで、すでにメーカーが提供している商品を作り直した商品、とされます。

ストアブランド (SB) は、一般的にプライベートブランド (PB)と同義で使われることが多いですが、厳密には異なる定義を持つ場合があります。

チェーンストア理論では、PBが「メーカーが提供していない機能や性質の商品」を指すのに対し、SBは既存のNB商品に対抗して、小売業が独自の仕様変更や再構築を行った商品というニュアンスを含みます。しかし、近時ではこの区別は曖昧になり、PBがSBを包含する形で使われることがほとんどです。

4.留型(とめがた)とは?

留型 (とめがた) とはナショナルブランド商品に対し、小売業者の要望に応じて仕様を一部変更し、その小売業者限定で販売される商品を指します。

PBとの違い:留型の最大の特徴は、商品のブランドがメーカーのものであるという点です。PBが小売業者のブランド名で販売されるのに対し、留型はメーカーのブランド名が前面に出ます。パッケージデザインや容量、限定フレーバーなど一部の成分などが変更されることが多いです。

清涼飲料水や菓子類などで、特定のコンビニエンスストアやスーパーマーケット向けに容量やフレーバーが変更された商品は「留型」の典型例です。例えば、メーカーの定番商品がコンビニ限定で大容量パックになっていたり、特定の販路でしか手に入らないフレーバーが販売されたりする商品が該当します。

メーカーから見た留型活用のメリット・デメリット

メリット

既存商品のバリエーション展開による販路拡大

小売業者との関係強化

製造ラインの効率的活用

大幅な開発投資なしに新商品投入が可能 (例外あり)

デメリット

他の小売業者での販売ができない

ブランドイメージの管理が複雑になる

5. ダブルチョップとは?

ダブルチョップとは、製造メーカーと販売者(小売業者や流通業者)の双方の企業名やブランド名がパッケージに併記される商品のことを指します。「Chop」は商標を意味し、二つの商標が併記されることから「ダブルチョップ」と呼ばれます。

NB:製造メーカーのブランド名のみ表示。

PB・SB:小売業者のブランド名のみ表示(製造者名は裏面に小さく記載されることはある)。

ダブルチョップ:メーカーと小売業者の双方がブランドとして前面に出る。

メーカーから見たダブルチョップ活用のメリット・デメリット

小売業者との強力なパートナーシップ構築

メーカーの信頼性や品質をアピールし、お客様の安心感に繋がる

NBとPB/SBの良いとこ取り(メーカーは安定供給、小売は差別化)

デメリット

双方のブランドイメージ管理の難しさ

意思決定プロセスが複雑になる可能性

ブランド間の競合リスク。

事例:イオンの「トップバリュ」の中には、裏面に具体的な製造メーカー名が記載されている商品が多くあります。また、ファミリーマートとカルビーが共同開発したポテトチップス(至福の鯛だし塩味)のように、パッケージの表面に双方のロゴが併記されているケースも「ダブルチョップ」の代表例です。

プライベートブランド(PB)ナショナルブランド(NB)ストアブランド(SB)留型(とめがた)ダブルチョップ
開発主体小売業者・流通業者メーカー小売業者・流通業者メーカー(小売業者の要望を反映)メーカーと小売業者の共同開発
ブランド表示小売業者のブランド名のみメーカーのブランド名のみ小売業者のブランド名(PBと同義で使われることが多い)メーカーのブランド名メーカーと小売業者の双方のブランド名
流通経路特定の小売業者の店舗や自社チャネルのみ全国(またはグローバル)の小売店、オンラインストアなど特定の小売業者の店舗や自社チャネルのみ特定の小売業者の店舗のみ特定の小売業者の店舗のみ
主な目的差別化、利益率向上、お客様ニーズの反映、お客様ロイヤルティ向上ブランド力確立、市場シェア拡大、全国のお客様への提供差別化、NB対抗(PBと同義)特定販路での商品バリエーション提供、小売業者との関係強化双方のブランド力強化、お客様への信頼性・品質のアピール
価格帯NBより安価な場合が多いが、プレミアムPBも増加中PBより高価な場合が多い(広告費・流通費などが上乗せ)PBと同等NBと同等かやや安価NBと同等かやや安価
メーカー側
メリット
安定した生産量、新たな販路、技術力アピール高い認知度、ブランド主導権、大規模マーケティングPB受託とほぼ同じ既存商品の販路拡大、小売業者との関係強化、開発コスト抑制強い協業関係、信頼性向上、安定供給
メーカー側
デメリット
自社ブランド育成の制約、製造委託契約による制約、品質責任PBとの競合、多大なコスト、激しい市場競争PB受託とほぼ同じブランドイメージの一貫性、特定の販路限定複雑な意思決定、ブランド間競合リスク、イメージ管理の難しさ

6. 小売業におけるPB比率の増加傾向と、メーカーが直面する課題

近年、日本の小売業界ではプライベートブランドの存在感が著しく増しており、その売上比率も年々増加傾向にあります。デフレ経済下での低価格志向や、小売業が独自の差別化戦略を推進する中で、PBが重要な役割を担っているためです。

ほぼすべての小売業がPBに重点的に取り組んでおり、PB比率は今後も増加することが見込まれます。

小売企業の棚割り戦略としては、値入率や独自性が高く、在庫も抱えることとなるPBを優先することは極めて自然かつ合理的な判断であり、メーカーがNBの売上高に大きく依存している場合、大きなリスクとなり得る状況と言えます。

イオングループではプライベートブランド「トップバリュ」は、2024年2月期の売上高が1兆円を突破し、イオン全体のPB売上高は1.4兆円に達しています。お客様の節約志向の高まりや、価格と品質のバランスを重視した商品開発が支持されていることを示しています。PPIH(ドン・キホーテなど)では、2023年6月期におけるPBの売上構成比は17.3%と拡大しており、積極的にPBを強化していることが伺えます。

海外のPB市場の動向と先進事例

PBの成長は日本に限った話ではありません。欧米ではPBがすでに高い市場シェアを占めており、その品質やブランド力はナショナルブランドに匹敵するものも増えています。

ウォルマート(米国):「Great Value」「Equate」など、多岐にわたるカテゴリーでPBを展開し、低価格ながら高い品質を提供しています。

トレーダー・ジョーズ(米国):ユニークな品揃えとデザイン性の高いパッケージが特徴のPBを展開し、単なる小売店ではなく「ブランド」としての地位を確立しています。

アルディ(ドイツ発):PB中心のビジネスモデルで知られ、高品質な商品を低価格で提供し、世界中で成功を収めています。

このPB比率の増加は、ナショナルブランド/メーカーにとって、小売店の棚における競争激化、価格決定権の低下、そして自社ブランドの成長鈍化といった課題へと直結する脅威といえます。

7. 中小企業メーカーが勝ち残るための戦略は?

PBの台頭はメーカーにとって脅威であると同時に、新たなビジネスチャンスでもあります。中小企業メーカーがこの変化の波に乗り、成長を続けるためには、各ブランド形態の特性を理解し、戦略的に活用することが不可欠です。

1. PB比率向上を捉えた、高付加価値型PBの戦略的提案

PB受託による安定した生産量と売上の獲得は、経営の安定化に寄与します。

また、PBが単に低価格型だけでなくなっていることは、メーカーが持つ強みを活かす機会ともなり得ます。さらには、大手小売業者との取引は、お客様や小売業他社からの信頼獲得にも繋がります。ただし、契約内容を精査し、売れ残り時の責任範囲なども明確にしておく必要があります。

小売業者のPB開発ニーズは高く、単に低価格型だけでなくなっている。

高品質・高機能なPBの需要の増加により、コストだけでなく、保有技術や提案力などでも勝負が可能に。

自社の得意な技術や生産能力を活かし、PB受託生産の機会を追求が可能なほか、PBを起点にした、NBとの組み合わせ商談も視野に

2. 小売店との協業深化

PBは、特定の販路での優位性確保の機会になります。特定の小売チェーンとの強固なパートナーシップを築き、小売店のお客様のニーズに特化した商品を提供することで、限定性と優位性を生み出すことが可能です。

また、共同開発の推進という機会にも注目が可能です。小売業者との共同開発を通じて、お客様インサイトを深く理解し、より市場にフィットした商品を開発する機会が獲得可能です。特に時としてメーカーが得られないセルアウトに関するデータにもとづく商品開発は、まさにメーカーと小売の強みを活かしあった体制と言えます。

3. デュアルブランド戦略の検討

ナショナルブランドとしての商品展開と同時に、小売業者のPB受託生産も手掛けるデュアルブランド戦略は、メーカーにとって売上最大化とリスク分散の有効な手段となります。自社NBと受託PB/SBとの間で、明確なポジショニング戦略が必要です。

4. 既存NBのブランド力強化と再定義

PBが品質を向上させている中で、NBはさらに高い品質、独自の技術、他にない価値を提供することで差別化を図る必要があります。単にスペックのみでは、NBの強大なブランド力を維持することが困難になるおそれがあります。

NBには、ブランドのストーリー、製造過程へのこだわり、サステナビリティへの貢献など、お客様が共感できる要素を強化し、単なる商品以上の価値提供が求められています。SNSやコンテンツマーケティング、さらにはECなどを通じて、お客様と直接繋がり、ブランドロイヤルティを高めていくことがこれまで以上に重要です。

高品質化と差別化

デジタルを活用した、お客様エンゲージメントやD2Cチャネル(B2Bとのトレードオフも)

5. 柔軟な生産体制構築の必要性

多品種少量生産や、需要変動に迅速に対応できる柔軟な生産体制を構築することで、PB受託営業においても、自社NBにおいても競争力を高めることが可能です。体制見直しは、全社の生産オペレーション改善にも繋がる機会です。

また、小売とのPB開発を通じて、環境配慮型の商品、地域貢献型の商品、フェアトレード品など、現代のお客様が重視するサステナビリティやエシカル要素を取り入れることで、新たな開発技術や付加価値を創造する機会にもなり得ます。

ただし、生産戦略は、設備投資とも密接に関連するため、大きなリスクを伴う領域でもあります。全体視点から、中期的なビジネスモデルそのものを検討する必要があると言えます。

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著者:GDGマガジン編集部
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