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事業承継における従業員承継とは?メリット・デメリット、課題と成功ステップを徹底解説-企業成長支援- GDG

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事業承継における従業員承継とは?メリット・デメリット、課題と成功ステップを徹底解説

更新日 : 2025.08.27

「親族以外に会社を託したい」「長年貢献してくれた従業員に、この会社を継がせたい」。

中小企業のオーナー経営者の皆様が抱える、こうした事業承継への想いは、決して珍しいものではありません。
しかし、その一方で「本当に従業員に任せて大丈夫だろうか?」「株式や資金はどうすればいいのか?」といった不安も尽きないのではないでしょうか。

この記事では、親族に後継者がいない、あるいは従業員への承継を真剣に考えているオーナー経営者の皆様のために、「従業員承継」のメリット・デメリットから、成功への具体的なステップ、よくある課題とその乗り越え方を解説します。

1. 「従業員承継」とは?なぜ今、中小企業オーナーに選ばれるのか

従業員承継とは、親族以外の役員や従業員(社員)に会社の株式や経営権を引き継ぐ事業承継の方法です。
後継者不在に悩む中小企業のオーナー様にとって、近年ますます注目される選択肢となっています。
帝国データバンクが行った調査によると、2024年の事業承継は血縁関係によらない役員・社員を登用した内部昇格が36.4%となり、これまで最も多かった同族承継の32.2%を上回っています。

従業員承継の定義と注目される背景

従業員承継は、親族内承継が難しい場合や、長年会社を支えてきた優秀な社員に報いたいというオーナー様の強い想いから選ばれることが多くなっています。
日本では経営者の高齢化が進む一方で、少子化によって親族内に適切な後継者がいないケースが増加しています。M&Aが一般的になったとはいえ、「信頼できる社員に託したい」と考えるオーナー様にとって、従業員承継は廃業以外の現実的な解決策です。

従業員承継(MBO・EBO・MEBO)とは?違いをわかりやすく解説

従業員承継は「親族以外の社員に会社を引き継ぐ方法」ですが、実務上は MBO(Management Buyout)、EBO(Employee Buyout)、MEBO という形態に分けられることがあります。いずれも従業員や経営陣が主体となる点は共通していますが、関わる人の範囲や資金調達の主体、意思決定の仕組みに違いがあるため、相違点を理解しておくことが重要です。

MBOによる従業員承継

MBOは経営陣が会社の株式を買い取り、経営権を引き継ぐ手法です。会社の事業内容や文化を熟知した経営陣が主体となるため、承継後の経営が安定しやすいというメリットがあります。役員個人の信用力をもとに銀行融資を受けやすい一方、資金負担が特定の経営陣に集中しやすい点が課題です。

EBOによる従業員承継

EBOは経営陣だけでなく、より広い範囲の従業員が株式を取得する手法です。従業員持株会の活用などにより、社内全体の支持を得やすく、文化継承に強い点が特徴です。ただし意思決定に関わる人数が多いため、意思決定スピードが遅くなりやすいという潜在的なリスクも伴います。

MEBOとは?

MEBOはMBOとEBOを組み合わせた承継方法で、経営陣と従業員が共同で株式を取得します。経営経験を持つ役員層と、現場を熟知する従業員が協力することで、バランスの取れた承継体制を築きやすいのが利点です。経営力と現場力を融合させた安定的な移行が期待できますが、両者の合意形成が複雑になりやすい点は注意が必要です。

MBO・EBO・MEBOの違い(従業員承継の形態比較)
項目 MBO(経営陣買収) EBO(従業員買収) MEBO(融合型)
主体 経営陣(役員層) 従業員(幹部・社員を含む) 経営陣+従業員
資金調達 経営陣が中心。借入やファンド活用可 従業員持株会を軸に、借入・ファンド活用可 両者で分担し柔軟に調達
メリット 経営安定性が高い/意思決定が迅速 社内支持が広い/文化継承に強い 経営力と現場力の両立
デメリット 資金負担が経営陣に集中/候補不足のリスク 意思決定が遅くなりがち/株式分散リスク 合意形成が複雑化しやすい

2. 従業員承継のメリット

従業員承継には、親族内承継や第三者へのM&Aにはない、独自の強みがあります。

企業文化・社風の維持と継承

長年培ってきた経営理念や社風をそのまま次世代に引き継げるのは、従業員承継ならではの利点です。外部買収のような急激な方針転換や人材流出のリスクが低く、従業員が安心して働き続けられる環境を保てます。結果として、雇用維持や定着率の高さにもつながります。

従業員・取引先・金融機関からの理解と信頼

見知った社員が社長に就任することで、従業員の安心感だけでなく、長年付き合いのある取引先や金融機関からの信頼も得やすくなります。M&Aのように「相手が誰になるかわからない」不安がないため、日常の取引や融資関係が円滑に継続しやすい点も大きなメリットです。

従業員のモチベーション向上

「自分たちの中から社長が生まれる」という実例は、他の社員にとっても大きな刺激になります。若手・中堅社員が「自分も将来会社を担えるかもしれない」と考えることで、組織全体のモチベーションやエンゲージメントが高まりやすくなります。

後継者の早期育成と実務適合性

従業員承継では、候補者を早期に特定して計画的に育成できるのが大きな利点です。
OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)や外部研修を通じて、経営者に必要な視点やスキルを習得させながら準備を進められます。
その結果、自社の事業内容や商習慣、組織運営に精通した状態でバトンタッチできるため、承継後の経営がスムーズに進みやすく、事業の継続性が高まります。

親族経営に近い体制構築

特定の従業員に株式を集中させることで、意思決定のスピードや安定性が保たれ、親族内承継に近い体制を築ける場合もあります。社内外からの支持とガバナンスを両立できれば、長期的な経営にも有効に機能します。もちろん、一括での株式譲渡だけでなく、株式を段階的に譲渡したり、経営権だけを先に移譲したりするなど、柔軟な承継方法を選べます。

3. 従業員承継のデメリットと潜在的リスク

従業員承継には多くのメリットがある一方で、注意すべきデメリットやリスクも存在します。これらを事前に把握し、適切に対策を講じることが成功の前提条件となります。

資金調達と個人保証の問題

従業員が株式を取得するには多額の資金が必要です。しかし、後継者候補が自己資金を十分に持っているケースは少なく、金融機関からの借入が必要となるのが一般的です。
さらに、会社の借入金に対する個人保証の引き継ぎは後継者やその家族にとって大きな負担となり、承継を断念する原因になることもあります。

経営スキル・経験不足のリスク

現場業務に長けた従業員でも、経営者として必要なスキルは別次元です。財務管理、戦略立案、リスクマネジメント、法務・税務対応などは、新たに学ぶ必要があります。
経営者としての覚悟やリーダーシップを短期間で身につけるのは難しく、承継直後の経営が不安定になるリスクがある点は無視できません。

先代経営者の影響力と経営改革の遅れ

従業員承継では、多くの場合、後継者が先代経営者のもとで長年働いてきています。そのため、先代の方針を強く踏襲しがちで、必要な経営改革が進みにくくなる懸念があります。
また、先代が引退後も経営に口出しを続けたり、後継者が精神的に依存したりすると、新体制の自立的な経営が阻害されるリスクもあります。

株式分散化と将来の事業承継リスク

従業員承継では、株式と議決権の管理は極めて重要です。株式が複数名の従業員に分散して承継されたり、承継後の管理が不十分だったりすると、将来的に新たな事業承継や、場合によっては経営権に関する課題が生じるリスクがあります。
後継者が引退する際に次の世代への承継が困難になったり、あるいは後継者となった従業員の家族が株式を相続するなどして、株式がさらに分散することは、リスク管理の対象となります。

事業承継は一度で完結するものではなく、数年後、あるいは数十年後に再び必要となるため、その持続性を踏まえた長期的な視点での計画が不可欠です。この点は、一般的に「家業」として次の親族へ承継するケースとは異なり、より計画的な株式管理が求められます。

親族からの理解と同意の難しさ

長年、家族経営を行ってきた企業の場合、親族以外への承継に対して、感情的な反発や理解が得にくいケースがあります。
特に、株式の贈与や売却価格など、資産に関わる部分で対立が生じやすく、親族間のトラブルを避けるためには、承継計画の初期段階から親族への丁寧な説明と合意形成が不可欠となります。

4. オーナー企業が直面する「従業員承継」の具体的な課題と乗り越え方

従業員承継は多くのメリットがある一方で、オーナー企業ならではの複雑な課題に直面することもあります。

課題1:後継者候補の選定と「経営者としての資質」の見極め

問題点】
「誰に経営を託すべきか」「現場はできても経営者としての器があるのか」という悩みは、多くのオーナーが直面します。

解決策
・ 貢献度だけでなく、リーダーシップ・学習意欲・決断力などを含む「経営者資質」を基準に評価する
・ 外部コンサルや人事制度を活用し、客観的に候補者を評価する仕組みを導入する
・ 後継者候補を早期に特定し、OJTや外部研修で育成を計画的に進める

課題2:株式の評価と資金調達、そして個人保証の問題

【問題点】
後継者が多額の株式取得資金を用意するのは難しく、さらにオーナー個人が負っていた銀行借入の保証をどう引き継ぐかが大きなハードルになります。

解決策
・ 日本政策金融公庫や信用保証協会の事業承継融資制度を活用する
持株会社を設立して資金調達をする
・ ファンドとの協業で資金負担を軽減する
・ 個人保証については、条件次第で「免除」を交渉できる制度もあるため、金融機関との早期協議が重要
[関連]事業承継で持株会社(ホールディングス)は有効?活用のメリット・デメリット・スキーム

課題3:現オーナーと後継者間の「権限移譲」と「コミュニケーション」

【問題点】
オーナーが細かく口を出し続けてしまうと、後継者の成長を妨げ、組織が混乱します。

解決策
・ 権限移譲の範囲とスケジュールを明文化する
・ 定期的な経営会議や対話の場を設け、経営理念や判断基準を共有する
・ 徐々に権限を委譲し、後継者が自ら意思決定できる環境を整える

課題4:従業員の理解と組織体制の再構築

【問題点】
「なぜあの人が後継者なのか」という不満が従業員間に生じたり、承継後に組織が機能不全に陥る可能性があります。

【解決策】
・ 承継の目的や後継者選定の理由を、社内外に透明性高く説明する
・ 新体制での役割分担や人事評価制度を見直し、公平性を担保する
・ 従業員のモチベーションを高める施策(インセンティブ制度、エンゲージメント強化)を導入する

5. 「従業員承継」成功への具体的なステップ

従業員承継を成功させるためには、事業承継計画に関する周到な準備と専門家の伴走が不可欠です。

ステップ1:承継の「準備」と「現状把握」

・経営者自身の想い(引退後のライフプランや会社への期待)を明確化
・会社の財務状況、事業内容、組織体制、潜在リスクを正確に把握
・必要であれば専門家に診断を依頼し、客観的に整理

ステップ2:後継者候補の「選定」と「育成計画」

・ 社内の役員・従業員から候補者をリストアップ
・ リーダーシップや経営資質を基準に評価
・ OJT(現場訓練)、外部研修、異業種交流など多面的な育成プログラムを設計
・ 数年単位でのロードマップを作成し、計画的に育成を進める
・ 事前準備として磨き上げによる経営改善に取り組む

ステップ3:株式・資産の「承継スキーム設計」と「資金調達」

・ 株価評価を適切に行い、税務面の影響を試算
持株会社や種類株式、信託スキームなどを比較検討
・ 日本政策金融公庫・信用保証協会の事業承継融資を活用
・ 個人保証問題については早期に金融機関と交渉し、免除・見直しの可能性を探る

ステップ4:社内外への「情報開示」と「組織移行」

・ 従業員、取引先、金融機関に対して事業承継計画を丁寧に説明
・ 承継の目的や後継者選定理由を明確に伝え、不安や反発を軽減
・ 新体制に合わせて組織体制や役割分担を見直し、公平性を担保

ステップ5:承継後の「モニタリング」と「フォローアップ」

・ バトンタッチ後も、一定期間は経営状況をモニタリング
・ 必要に応じて先代がアドバイザーとしてサポートしつつ、最終的には後継者の独立性を確立
事業承継コンサルなどの外部専門家や顧問を活用し、経営判断を多角的に検証

6. 従業員承継を成功させるための具体的な対策とポイント

従業員承継は、計画的に進めれば企業文化を守りつつ事業を安定的に引き継げる有効な手段です。しかし、資金・人材・組織といった多方面に課題が伴います。ここでは、成功のために押さえておきたい具体的な対策を整理します。

後継者の選定と育成を計画的に進める

・ 数年単位の育成ロードマップを作成し、後継者候補の成長を可視化
・ 単なる実務能力だけでなく、リーダーシップや変革意欲を含む「経営者資質」を評価軸にする
・ OJTに加え、外部研修・コーチング・異業種交流を組み込み、段階的にスキルを育成

資金調達と個人保証問題を早期に解決

・ 日本政策金融公庫や信用保証協会など、事業承継向けの公的支援制度を活用
・ 持株会社や種類株式を利用したスキーム設計で資金負担を軽減
・ 個人保証については、金融機関との交渉を早期に開始し、免除・見直しの可能性を探る

株式・資産承継の計画と税務対策

・ 将来のトラブルを避けるためにも、株式の承継は慎重に行う必要
・ 株式の評価額を適切に算定し、可能であれば、税負担を軽減するための対策
・ 種類株式の活用、持株会社化、信託の活用などを検討し、将来的な株式分散化リスクを予め管理する仕組み

承継後の組織・経営体制の構築

・ 後継者と先代の役割を明確にし、段階的に権限を移譲
・ 承継目的や選定理由を社内外にオープンに伝え、透明性を担保
・ 人事評価制度や報酬体系を見直し、従業員の納得感とモチベーションを高める

専門家との連携と情報収集

事業承継コンサルタント事業承継に詳しい税理士・弁護士・司法書士など各分野の専門家を交え、包括的に支援を受ける
・ 事業承継・引継ぎ支援センターなど公的機関の無料相談を活用
・ 必要に応じてM&Aアドバイザーやファンドとの連携も視野に入れる

(チェックリスト)

  • 後継者候補の評価基準は明確か?
  • 資金調達の見通しと保証問題の解決策はあるか?
  • 株式・資産承継の税務シミュレーションは済んでいるか?
  • 承継後の組織体制と役割分担を設計しているか?
  • 専門家・公的支援機関との連携体制を構築しているか?

7. まとめ:従業員承継は「実行経験」豊富なプロと共に

従業員承継は、後継者不在に悩む中小企業にとって、
・ 企業文化を守り
・ 従業員や取引先の信頼を維持し
・ 雇用を安定させる
という点で非常に有効な選択肢です。

一方で、株式取得資金や個人保証、経営スキル不足、親族からの理解など、多くの課題が伴うのも事実です。これらを一つずつ解決しながら進めるには、税務・法務・人事・組織戦略など、幅広い専門性が不可欠です。

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従業員承継も選択肢のひとつです。事業承継全体は 事業承継ガイド に整理しています。

FAQ

Q1. 従業員承継とは何ですか?

A. 親族以外の役員や従業員に会社の株式や経営権を引き継ぐ方法です。後継者不在の企業に選ばれるケースが増えており、近年は中小企業白書でも親族承継とほぼ同水準の割合が報告されています。

Q2. MBOやEBO、MEBOとの違いは?

A. いずれも従業員承継の一形態であり、株式取得や資金調達の方法に違いがあります。
MBO (Management Buyout):経営陣が会社を買い取る形の承継。
EBO (Employee Buyout):役員だけでなく従業員を含めた買収型承継。
MEBO:MBOとEBOの両方の要素を組み合わせた形。

Q3. 社員が事業承継を行う「従業員承継」のメリットは何ですか?

A. 企業文化や社風を維持しやすく、従業員や取引先から信頼を得やすい点が大きなメリットです。
また、現場を知る社員が後継者になるため経営移行がスムーズで、従業員のモチベーション向上にもつながります。

Q4. 従業員承継にデメリットやリスクはありますか?

A. 資金調達や個人保証の負担、経営スキル不足、株式分散による将来の混乱リスク、親族からの反発などが課題になります。これらは事前準備と適切な対策で軽減できます。

Q5. 従業員承継に必要な資金はどう準備しますか?(従業員承継 資金調達)

A. 主に金融機関融資、日本政策金融公庫の事業承継融資、信用保証協会の制度などを活用します。また、持株会社スキームやファンドを利用する方法もあります。状況に応じて、個人保証を伴わない融資が可能な場合もあります。

Q6. 従業員承継を成功させるステップは?

A.
 1. 現状把握と承継計画の策定
 2. 後継者候補の選定と育成
 3. 株式承継スキーム設計と資金調達
 4. 社内外への情報開示と組織移行
 5. 承継後のモニタリングとフォローアップ
これらを順序立てて行うことが成功の鍵です。

Q7. 従業員承継の割合は?

A. 帝国データバンクが行った調査によると、2024年の事業承継は血縁関係によらない役員・社員を登用した内部昇格が36.4%となり、これまで最も多かった同族承継の32.2%を上回りました。

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GDGマガジンは、事業承継、営業、マーケティング、組織づくりなど、中堅・中小企業経営者の皆様に役立つ情報をわかりやすく発信するビジネスメディアです。経営や事業承継の実践的な経験を活かしながら、経営者様が抱える様々な課題に寄り添い、価値あるコンテンツをお届けしています。

監修者

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宇納 陽一郎

グランド・デザイニング・グループ代表。早稲田大学卒業後、野村證券にて営業・投資銀行業務に従事した後、日清食品にて経営企画・M&Aに従事。その後、PE投資会社にて複数社での事業承継および新体制構築を経験。経営・営業・管理の実体験を活かした営業戦略や経営経営管理体制の構築支援を提供。㈱ウォーターフロント代表取締役、㈱ナルネットコミュニケーションズ取締役等を歴任。