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事業承継 # M&A・PMI# 事業承継計画# 企業価値向上# 後継者# 従業員承継# 経営管理

磨き上げで事業承継・M&Aに向けて企業価値を最大化する方法と最適タイミング

更新日 : 2025.12.05

事業承継を成功させるために欠かせない取組の一つが「磨き上げ」です。磨き上げとは、財務や法務の整理にとどまらず、企業価値を高めるために、株式・財務・人材・知的財産などを総合的に整える戦略的な活動を指します。中小企業庁の事業承継ガイドラインでも、こうした総合的な「磨き上げ」の重要性が示されています。

特に第三者への事業承継M&Aでは、磨き上げが譲渡価額やその他条件に直結します。一方で、磨き上げ=M&Aのためだけの準備ではありません。親族内承継や従業員承継においても、財務・法務のリスクを取り除き、会社の強みを見える化し、後継者や次のオーナーに「選ばれる企業」「承継しやすい企業」へと進化させるためには、磨き上げは不可欠なプロセスです。

本記事では、事業承継M&Aにおける磨き上げとは何か、その目的と対象領域、チェックすべきポイント、いつどのように始めるかについて整理します。磨き上げの具体的な実行支援については、事業承継コンサルティングサービスの中でご提供しています。
事業承継コンサルティングサービス(磨き上げ・第二創業・M&A支援)

磨き上げとは?なぜ事業承継に必要?

磨き上げの定義

「磨き上げ」とは、会社の現状を多角的に調査・把握し、課題を解決するとともに強みを明確にすることで企業価値を高めることを指します。中小企業庁の「事業承継5つのステップ」においては、第3ステップに位置づけられています。事業承継の全体像については、事業承継ガイドで詳しく解説しています。

磨き上げ

磨き上げの目的

磨き上げの目的は、企業価値を高めることにあります。事業承継のパターン(親族内承継/従業員承継/M&A)に応じて注力領域はやや異なりますが、共通して次のような狙いがあります。

  • M&A(第三者承継)の場合
    譲渡価格の最大化、買い手候補の獲得、デューデリジェンスの事前対策など
  • 親族内承継、従業員承継(社内承継)の場合
    後継者候補が「継ぎたい」と思える会社づくり、実際の経営移行を円滑にする「継ぎやすい」会社づくり、経営者保証の軽減につながる財務体質改善など

磨き上げが事業承継の成功を分ける3つの理由

磨き上げを実施したかどうかで、事業承継には大きな差が生まれます。「磨き上げ」が重要な理由は大きく3つに整理できます。

1. 譲渡価格の最大化と交渉力の強化

買い手にとって魅力的な会社であるほど、譲渡価額は上がり、条件交渉でも有利になりやすいです。逆に財務や法務の整理が不十分な企業は「リスクが高い」と見なされ、評価額が引き下げられる傾向があります。

磨き上げは、こうしたディスカウント要因を排除し、企業の強みを前面に出すことにつながります。結果として、譲渡価格の最大化と交渉力の強化の両方に寄与します。

2. 買収監査(デューデリジェンス)への事前対応

M&Aでは一般的に、買い手によるデューデリジェンス(法務・財務・税務などの詳細な買収監査)が実施されます。M&Aの専門家や買い手企業から見れば致命的ともいえる「ディールブレーカー(取引中止要因)」となりうる問題が潜んでいることは珍しくありません。デューデリジェンスにより問題が顕在化し、交渉が中断・破談になるケースも少なくありません。

買い手企業が懸念するポイントの一つは「不確実性」です。整理されていない情報、不明瞭な契約関係、潜在的な法的問題などは、この不確実性を増大させ、買収後の統合(PMI)負担や、予期せぬ損失の発生リスクを示唆することになります。

一方で、磨き上げが徹底された企業は、経営体制や情報開示の透明性の高さ、そして買収後の統合イメージを買い手に印象付けることが可能です。磨き上げによってあらかじめ潜在リスクを洗い出し、是正しておくことは、デューデリジェンスをスムーズに乗り越えることにつながります。

3. 後継者の意欲と承継後の持続性

「継ぎたくなる会社」でなければ親族も従業員も承継に前向きになりません。組織体制や業務プロセスが属人的であったり、将来の見通しが不透明であったりすると、候補者は不安を感じます。

磨き上げは、単なる売却準備ではなく、次世代のために事業を持続可能な状態に整える経営行為でもあります。組織・人材・業務プロセスを整えることで、後継者が「この会社を継ぎたい」と思える魅力ある会社をつくることができます。これは、事業承継計画の中核となるポイントです。

磨き上げの必要性

磨き上げを戦略的に実施すれば、第三者承継での高い譲渡価額や、社内承継でのスムーズな承継の実現という両方の成果が得られやすい状態をつくることが可能です。つまり磨き上げは、承継者が誰かに関わらず、次の世代から選ばれやすい状態へと会社を変え、選択肢を増やしておく活動とも言えます。従業員承継のポイントは、「従業員承継の概要と流れ」でも詳しく解説しています。

磨き上げはいつから準備を開始するか

磨き上げの重要性は理解していても、「いつから始めればいいのか?」と悩むこともあります。日常業務に追われる中で、「事業承継やM&Aが具体化してから考えればよい」と後回しにしてしまうケースも少なくありません。しかし、事業承継の準備には「タイミング」が非常に重要です。経営者の平均年齢は60歳を超え後継者不在率は50%以上とも言われています。これは、多くの中小企業にとって、十分な時間を確保して事業承継の準備を進めることがいかに難しいかを物語っています。

事業承継計画の初期段階として、5年以上前から着手するのがベスト

磨き上げは、事業承継計画の初期段階から進めるのが理想です。中小企業庁の指針を参考にすると、事業承継の準備期間の目安はおおむね5〜10年程度とされています。特に、後継者の育成組織文化の承継は数年単位で取り組まなければ成果が出ません。後継者育成には最低でも3年以上を要しますし、技術・ノウハウの承継についても、マニュアルの整備やOJTによる指導期間を含めて、十分確保する必要があります。

「事業承継M&Aを視野に入れているかどうか」にかかわらず、少なくとも5年前から磨き上げを意識し始めることが、理想的なスケジュール感と言えるでしょう。

財務・法務の磨き上げは短期間でも一定の効果あり

財務や法務の整備といった領域は、比較的短期間でも一定の成果を出すことが可能です。短期間での駆け込み対応は本来おすすめできませんが、例えば次のような取り組みは、事業承継・M&Aの6か月〜1年前からでも着手する意義があります。こうした対応だけでも、デューデリジェンスで指摘されるリスク要因を減らし、評価のディスカウント幅を抑える効果が期待できます。

  • 不採算事業の撤退・整理
  • 重要な契約書類・議事録・社内規程の整備
  • 簿外債務やグレーな取引の解消・見える化

早期着手による主なメリット

磨き上げを早く始めることで得られる主なメリットは以下の通りです。

  • 改善効果が業績・財務など反映されやすい
    会社の基盤を強くするには時間がかかります。早期に動けば動くほど、業績や財務指標に磨き上げの効果が反映され、事業承継M&Aのタイミングで「数字として見える状態」に近づけます。リスク要因を事前に解消できれば、デューデリジェンスでの指摘や価格引き下げの材料を減らすことにもつながります。
  • 後継者へのスムーズな移行
    後継者がバトンを受け取る頃には、組織体制や業務プロセスがある程度整った「整った会社」になっているため、承継時の負担が軽くなります。引き継ぎ後、後継者がすぐに経営に集中できる状態をつくれることは、大きなメリットです。
  • 後継者の安心感
    「整った会社を引き継げる」という一定の安心感は、後継者が承継準備を進めるうえでの心理的ハードルを下げます。

着手が遅すぎる場合のリスク

反対に事業承継やM&Aの直前に慌てて着手すると、対応が表面的になり買い手から低評価を受ける、潜在的なリスクが残ったまま交渉に入るため条件悪化や破談につながる、後継者が承継直後に混乱し、経営不安定を招くことにも繋がりかねません。

磨き上げの対象一覧(抜粋)

株式・株主構成

  • 名義株・休眠株主の有無
  • 親族・役員・従業員持株の整理
  • 将来の承継スキームと整合した株主構成か など

経営管理・ガバナンス

  • 取締役会・株主総会の議事録整備
  • 就業規則・規程類の整備
  • 代表者個人と会社の線引き(貸付金・資産など)

財務・税務

  • 不採算事業・不要資産の整理
  • 決算の早期化・月次試算表の整備

人事・労務・人的資本

  • キーマン依存度の可視化
  • 人事評価・賃金制度の整合性
  • 労務リスク(未払い残業、社会保険など)の有無

事業・顧客・取引先

  • 主力事業の収益性・成長性
  • 顧客集中度(特定顧客への依存)
  • 重要取引先との契約・取引条件の整理

知的資産(技術・ブランド・ノウハウ)

  • 特許・商標・著作権の保護状況
  • ノウハウの属人化・マニュアル化の状況
  • ブランド・信用・ネットワークなど無形資産の整理

外観・ブランド・情報発信

  • 工場・店舗・オフィスの印象
  • ホームページ・パンフレット等の情報の正確性
  • 採用・取引先開拓における発信力

財務・法務の磨き上げ方法|基礎チェックリスト

磨き上げの第一歩は、企業の基盤を整えることです。特に財務・法務・事業運営といった領域は、買い手企業や後継者から注目される部分であり、事業承継M&Aの評価や後継者の安心感を大きく左右します。

財務・税務

財務の透明性は、買い手が企業価値を評価し、M&Aの可否を判断する際の出発点です。数字の精度が低い企業は、事業そのものが優良であっても本来の評価を得られません。

チェックリスト

  • 損益計算書(P/L)の改善
    • 不採算事業・赤字商品の撤退
    • 不要経費の削減(通信費・外注費・過剰な広告費など)
    • 仕入コスト・物流コストの見直し
    • 粗利率改善のための価格・商品構成の最適化
  • 貸借対照表(B/S)のスリム化
    • 遊休資産・非稼働設備の処分
    • 過剰在庫・滞留在庫の圧縮(在庫評価方法の見直しを含む)
    • 不要な固定資産の売却
    • 有利子負債の削減計画(短期借入金の整理・資本構成の最適化)
  • 会計処理の透明化
    • 簿外債務の発見・解消
    • 不適切な会計処理・税務上のリスクの是正
    • 月次決算の早期化、試算表の精度向上
    • 会計監査・内部監査の体制整備

法務・ガバナンス

法務リスクは、デューデリジェンスで厳しくチェックされるポイントです。

チェックリスト

  • 契約書の総点検
    • 主要取引先との契約書(取引基本契約・秘密保持契約など)の整備
    • 従業員・役員との雇用契約、競業避止、機密保持の確認
    • 知財・制作物の著作権の帰属確認
    • 契約期限切れ・口頭契約の除去
  • 株主構成・株式整理
    • 少数株主の整理(議決権の安定化)
    • 株主名簿の正確性
    • 名義株・相続未処理株
  • 社内規程・議事録の整備
    • 就業規則・給与規程・稟議規程の最新化
    • 取締役会・株主総会の議事録整備
    • 契約・印章管理のルール化
    • 情報管理ポリシー(セキュリティ)の策定
  • コンプライアンス体制
    • 内部監査の実施体制
    • 反社チェック・取引先審査のルール
    • リスク管理フレームワーク(財務・労務・法務)の整備
    • 個人情報保護・各種法令遵守の状況確認

事業・業務・見えない価値の可視化

財務・法務だけでなく、事業そのものの魅力を強化することが、後継者や買い手企業の判断に直結します。特に「見えない資産(知的資産・ノウハウ)」の整理は、企業価値の向上に大きく寄与します。

チェックリスト

  • ビジネスモデルと強みの明確化
    • 顧客が自社を選ぶ理由の整理
    • 競合優位性の分析
    • 商品・サービスの収益構造の可視化
  • 顧客・取引先との関係強化
    • 取引依存度の把握(特定顧客への依存リスク)
    • 取引条件・契約の見直し
    • 主要顧客との関係維持・強化策の整理
    • 営業プロセスの明確化(属人営業の解消)
  • 業務プロセスの可視化・標準化
    • 現場オペレーションの棚卸し
    • 業務フロー・手順書・マニュアルの整備
    • 属人化の解消(特定社員に依存しない体制づくり)
    • 人員配置・スキル構造の最適化
  • 知的資産の棚卸し
    • 技術・ノウハウの文書化
    • 商標・特許・著作権などの権利関係の整理
    • ブランド・信用・地域ネットワークなどの無形資産の可視化
    • デジタル資産(顧客データ・システム・サイト)の管理状況

成長可能性を織り込んだ事業計画でさらに磨き上げる

これまで見てきた磨き上げは、財務・法務・事業運営の整理といった過去から現在の改善が中心でした。一方で、実際に買い手や後継者が注目するのは、この会社は将来どこまで成長できるのかという将来に関する領域です。

その意味で、事業承継の磨き上げには、成長可能性を織り込んだ将来の事業計画が必要です。現在の強みと課題を踏まえながら、どの事業に集中し、どこから撤退し、どのように投資していくのか。いわゆる事業ポートフォリオの再設計も、磨き上げの重要な一環と言えます。

将来の事業計画が磨き上げの“仕上げ”になる理由

事業承継M&Aの場面で、買い手や金融機関・投資家は次のような点を重視します。

  • 過去の業績が安定しているか
  • 現在の収益構造は健全か
  • 今後3〜5年でどの程度の成長が見込めるか

過去と現在をどれだけ整えても、将来の姿が見えなければ、場合によっては成長余地の小さい会社と評価されてしまう可能性があります。逆に言えば、

  • どの事業に経営資源を集中するか
  • どの顧客・市場を伸ばしていくのか
  • どのような投資・人材育成を行うのか

が合理的に示されていれば、企業価値の上振れ要因としても評価されやすくなります。

成長可能性を高める視点

事業ポートフォリオと成長戦略

将来の事業計画の中核となる事業ポートフォリオの整理では、伸ばすべき「コア事業」と、収益性の低い周辺事業の切り分け、新規投資を行う事業、縮小・撤退を検討すべき事業の判定、既存顧客・新規顧客・新市場への展開余地の整理などの整理を通じて、会社が今後どの領域で成長するのかを明確にしておくことで、買い手や後継者にとっての将来像が描きやすくなります。

事業ポートフォリオの考え方については、別記事「事業ポートフォリオとは?企業価値を高める戦略的な考え方」で詳しく解説しています。

人的資本経営による組織の磨き上げ

人的資本経営では、人への投資を通じて企業価値を高めるという考え方であり、企業評価の世界でも注目が高まっています。人的資本経営の観点からの「磨き上げ」ポイントは、例えば次の通りです。

  • 従業員育成:教育・研修制度の整備により、後継世代のリーダー人材を計画的に育成する
  • 人材承継:経営者だけでなく、営業・技術・管理など中核人材の「承継プラン」を設計する
  • エンゲージメント:働きがい改革や評価制度の見直しにより、従業員が誇りを持てる会社にする

これらはすべて、「承継後にこの会社を動かす人材がどれだけ育っているか」という問いへの答えになります。事例として、東京都の利根川産業は、事業承継準備として、組織図を整備しリーダー育成プログラムを導入した結果、後継者が承継を決断し、承継後も社員が主体的に成長を続ける組織へと変革しています。

M&Aにおける磨き上げ|セルサイドDDと企業価値向上

ここまで見てきた磨き上げは、親族内承継や従業員承継にも共通する「土台づくり」でした。一方で、第三者へのM&A(事業承継M&A)を検討する場合、磨き上げは譲渡準備という意味合いを強めます。特に重要になるのが、セルサイドDD(セルサイド・デューデリジェンス)との関係です。以下では、M&Aプロセスの中での位置づけと、企業価値向上につながるポイントを整理します。

M&Aプロセスにおける磨き上げの位置づけ

一般的な中小企業M&Aの流れを大まかに整理すると、次のようになります。

  • M&Aの検討・FA(仲介/アドバイザー)の選定
  • 企業価値の簡易査定(初期的なバリュエーション)
  • 買い手候補への情報開示(ノンネーム → 詳細資料)
  • 意向表明(LOI)
  • 買い手によるデューデリジェンス
  • 最終条件交渉・契約締結
  • クロージング

このうち、情報開示までのタイミングが「磨き上げの対象」です。 財務・法務・事業の整理を進めながら、同時に「どのような会社として見せていくのか」を設計していくフェーズと言えます。

セルサイドDDとは何か?買い手DDとの違い

デューデリジェンス(DD)というと、多くの方は「買い手側が実施する詳細調査」をイメージされると思います。これに対して、セルサイドDDは、売り手側が専門家(FA、公認会計士、弁護士など)と一緒に行う事前の自社調査です。

買い手DD:買い手がリスクや価値をチェックするための調査

セルサイドDD:売り手が自らリスクと強みを棚卸しし、「問題点を先に潰す」「説明できる状態にする」ための調査

つまり、磨き上げとは、セルサイドDD的な視点で自社を見直すこととも言い換えられます。セルサイドDDを意識した磨き上げを行うことで、

  • 買い手DDで「初めて知るリスク」が減る
  • 価格交渉の場で、慌てて条件譲歩する状況を避けやすくなる
  • 買い手とのコミュニケーションがスムーズになり、破談リスクが下がる

といった効果が期待できます。

セルサイドDD視点で見た磨き上げの重点ポイント

M&Aの磨き上げでは、先ほどの基礎的なチェックリストに加えて、次のような点を意識しておくことが重要です。

(1) 重要なリスクを隠さず、整理しておく

潜在的な債務・訴訟リスク・税務リスク、名義株や少数株主、親族間の利害対立の可能性、労務リスク(長時間労働、未払い残業など)など、これらをなくす努力をするのはもちろんですが、完全にゼロにできない場合もあります。その際に大事なのは、どのようなリスクがあるのか、どこまで対応済みで、どこから先は買い手と協議したいのか、を整理し、「説明できる状態」にしておくことです。“何が出てくるかわからない会社”より、“課題を把握している会社”の方が、結果的に評価されやすくなります。

(2) 企業価値の源泉を言語化しておく

M&Aにおける企業価値は、単なるP/LやB/Sだけでなく、顧客との関係性、技術力・ノウハウ、ブランド・信用、優秀な人材・組織文化、といった目に見えにくい資産に大きく依存します。セルサイドDDを意識した磨き上げでは、こうした無形の強みを、説明資料やデータ(顧客数、リピ-ート率、離職率など)として可視化しておくことが重要です。これは前章の「知的資産の棚卸し」ともつながる部分です。

(3) 自社と買い手が期待するシナジーを意識する

買い手企業がM&Aを検討するのは、「シナジー(相乗効果)」を期待しているからです。自社商品と組み合わせて売上拡大できそうか、自社の販売網に載せられそうか、自社の技術・人材と組み合わせることでコスト削減できそうか、といった視点で、「自社が買い手にもたらす、あるいは買い手に期待するシナジー」を整理しておくと、交渉時にポジティブな材料として活用できます。ここでも、簡単な形で構わないので将来の事業計画や成長ストーリーを用意しておくと、説得力が大きく変わります。

企業価値向上につながるポイント

M&Aの磨き上げを進めるうえで、譲渡価額の向上につながりやすい実務的なポイントを3つに絞ると、次のようになります。

EBITDA・営業利益の「質」を高める

M&Aの企業価値評価では、EBITDAや営業利益が重視されることが多くあります。ここで重要なのは、単に数字を一時的に増やすのではなく、継続的に稼げる体質かどうかを示すことです。一時的なコストカットではなく、粗利率の改善、価格・商品ミックスの見直し、リカーリング収益(ストック収益)の比率を高める工夫などを、3〜5年スパンの事業計画とセットで示せると、企業価値向上につながりやすくなります。

買い手のDDを見据えた「資料・説明」の準備

最後に、セルサイドDD的な観点から資料と説明の準備も重要な磨き上げの一部です。DDで開示が想定される資料を体系的に揃えておくこと自体が、「管理が行き届いている会社」という印象につながります。逆に、「資料がバラバラでどこに何があるかわからない状態」は、実態以上にマイナスの印象を与えかねません。

こうしたM&A特有の磨き上げは、オーナー経営者だけで完璧にこなすのは難しい領域でもあります。
実際のセルサイドDDや磨き上げのプロセスを検討する際には、M&Aに詳しい専門家(FA、公認会計士、弁護士など)と連携しながら進めていくことをおすすめします。

磨き上げを進めるための体制づくり

磨き上げを進めるためには、どれだけ良いチェックリストがあっても、「誰が、どの順番で、どの領域を進めるか」 という実行体制が整っていなければ前に進みません。また、磨き上げは、経営者一人で完結することは容易ではありません。財務・法務・事業・組織など多岐にわたる領域を同時並行で整えていくためには、後継者候補を含め、社内外を巻き込んだ実行体制が必要です。ここでは、社内プロジェクトの組み方、外部専門家の活用、公的支援の使い方について整理します。

社内プロジェクトチームの立ち上げ

最初の一歩は、経営陣の意思を明確にし、社内で磨き上げのプロジェクトを立ち上げることです。「誰が何をするのか」「いつまでにどこまで進めるのか」を決めるだけでも、取り組みの進み方は大きく変わります。

外部専門家の活用法

磨き上げの多くは、専門知識が不可欠な領域です。内部だけでは判断が難しい課題は、外部専門家の知見を取り入れることで、短期間で効率的に解決できます。外部専門家を早期に関与させることで、買い手が求める「第三者視点で整った状態」を、社内だけで進めるより短期間で整えることが可能になります。特に、外部の専門家をどう選ぶかは事業承継の成否を左右します。

専門家選びのポイントは、「事業承継コンサルの選び方と役割」「事業承継に強い税理士の探し方」も参考にしてください。

磨き上げコンサルティングで得られる支援

自社だけで取り組んでみたものの、「どこから着手すべきか分からない」「やるべきことは見えてきたが、実行が進まない」といった課題に直面するケースも少なくありません。そこで有効なのが、磨き上げに特化した事業承継コンサルティングの活用です。

事業承継コンサルティングを活用することで、財務・法務・事業・人的資本などを横断的に診断し、強み・課題・リスクを「見える化」したレポートの作成、事業承継やM&Aを前提にした「現状の評価イメージ」の提示から優先順位をつけたアクションプランの策定、3〜5年程度の改善スケジュール・ロードマップの設計、KPIの設定と進捗モニタリング、定例ミーティングでの伴走支援などの支援などを受けることができます。経営者は日々の経営と並行しながらも、承継やM&Aに向けた準備を計画的に進めることができます。

公的支援を活用した磨き上げ

磨き上げは、必ずしも民間の支援だけで進める必要はありません。公的な制度や専門機関を活用することで、費用負担を抑えながら磨き上げを進めることも可能です。

経営力向上支援では、事業承継・M&Aに関連する補助金を活用し、「磨き上げ」の取り組み強化することが可能です。例えば、事業承継・M&A補助金における事業承継促進枠では、生産性向上を目的とした設備の更新やデジタル化(DX)投資が対象となります。また、後継者が主体となって行う新商品・新サービス開発のための外注費・委託費なども、補助金の対象となるケースがあります。なお、この種の補助金では、「今後5年以内に事業承継を予定している中小企業」を対象とする枠が設けられていることが多く、その場合は現経営者と後継者等が共同で作成した「事業承継計画書」の提出が必須要件になっています。

知的資産経営報告書は、技術・ノウハウ・ブランド・人材など、財務諸表に表れにくい強みを整理するためのフレームワークとして、事業承継やM&Aの場面で、自社の魅力を伝える資料としても有効です。

中小企業活性化協議会や、認定経営革新等支援機関では、事業承継に向けた相談や経営改善・再生に関する支援などを行っています。磨き上げに着手する早い段階で相談しておくことで、公的支援や補助制度の活用余地が見えてくる場合があります。

自社の状況に合わせて、どのステップから着手すべきか整理したい方は、事業承継コンサルティングの詳細もご覧ください。

まとめ|磨き上げで企業価値を高める

本記事では、事業承継における「磨き上げ」の重要性と、その実践手法の入口を解説してきました。「磨き上げ」は単なる売却準備や整理作業、事業承継準備にとどまらず、企業価値向上の戦略プロセスです。 「どこから手をつけるべきか分からない」「外部の視点で評価してほしい」という方には、専門家による無料相談をおすすめします。事業承継コンサルティングの無料相談はこちらから。

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最後に

会社の将来価値は今日の準備によって決まります。事業承継を数年先と考えている経営者も、今から「磨き上げ」を始めることが、後継者・従業員・取引先にとって最良の選択に繋がる可能性があります。関連コンテンツ「第二創業と事業承継」でも触れていますが、事業承継を引き継ぎで終わらせず、新たな成長機会に変える視点を持つことが会社のゴーイングコンサーンにおいて重要です。

FAQ

Q 「磨き上げ」とは何ですか?

A. 中小企業庁のガイドラインによれば、磨き上げとは「会社の現状を多角的に調査・把握し、課題を解決して強みを明確にすることで企業価値を高めること」です。M&Aだけでなく、親族内承継や従業員承継にも必要なプロセスです。

Q 磨き上げはいつから始めるべきですか?

A. 理想は5〜10年前から準備を始めることです。後継者育成や組織文化の継承には時間がかかるため、最低でも3年以上を確保するのが望ましいとされています。財務・法務の整備は直前(6か月〜1年前)でも一定の効果があります。

Q 磨き上げの具体的な方法は?

A. 財務・法務・事業の整理に加え、次世代の磨き上げとしてESG経営や人的資本経営を取り入れることが効果的です。記事内のチェックリスト(P/L改善、契約書点検、知的資産棚卸し等)を参考に、自社の状況を点検してください。

Q 親族内承継や従業員承継でも磨き上げは必要ですか?

A. はい。M&Aだけでなく、親族や従業員への承継でも不可欠です。後継者が「継ぎたい」と思える会社に整えることが、承継後の事業継続・成長につながります。特に従業員承継では、社員のモチベーション維持や株式承継の方法など特有の論点があります。詳しくは 従業員承継の概要をご覧ください。

Q 専門家に相談するメリットは?

A. 財務・法務・税務・契約は専門知識が必要で、社内だけで解決できない場合が多いためです。早期に外部専門家を関与させることで、効率的かつ確実に磨き上げを進められます。相談先の選び方については「事業承継コンサルの選び方と役割」や「事業承継に強い税理士の探し方」の記事が参考になります。

Q 専門家に相談するタイミングは?

A. 早ければ早いほど良いです。特に財務・法務の整理や資本政策は専門知識が必要なため、計画段階からコンサルタント・弁護士・会計士・税理士などに関与してもらうことをおすすめします。

Q 磨き上げの取り組みをサポートしてもらえますか?

A. はい。弊社では「磨き上げコンサルティング」を提供しており、診断・戦略設計・実行支援を一貫してサポートします。無料の初期相談もご利用いただけます。

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監修者

監修者の写真

宇納 陽一郎

グランド・デザイニング・グループ代表。早稲田大学卒業後、野村證券にて営業・投資銀行業務に従事した後、日清食品にて経営企画・M&Aに従事。その後、PE投資会社にて複数社での事業承継および新体制構築を経験。経営・営業・管理の実体験を活かした営業戦略や経営経営管理体制の構築支援を提供。㈱ウォーターフロント代表取締役、㈱ナルネットコミュニケーションズ取締役等を歴任。

※本サイトは、法律・税務・会計またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情をもとに専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断にてご利用をお願いします。また、掲載している情報は記事更新時点のものです。

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