GDG

従業員承継のメリット・デメリット。成功への鍵と失敗しないための対策-企業成長支援- GDG

MAGAZINEマガジン

2025.06.13

従業員承継のメリット・デメリット。成功への鍵と失敗しないための対策

事業承継を検討している経営者にとって、どの方法を選ぶかは会社の未来を左右する重要な決断です。特に、長年苦楽を共にした従業員に会社を託す「従業員承継」は、多くのメリットがある一方で、知っておくべきデメリットやリスクも存在します。従業員承継のメリットとデメリットを具体的に解説し、それらの課題を乗り越えて承継を成功させるための対策をご紹介します。

従業員承継のメリット

従業員承継には、親族内承継や第三者へのM&Aにはない、独自の強みがあります。

企業文化・社風の維持と継承

長年培ってきた会社の理念や価値観、独自の社風をスムーズに引き継げる点は、従業員承継の最大のメリットの一つです。社内の人間が後継者となるため、外部からの介入による急激な変化が少なく、従業員の戸惑いを最小限に抑えられます。これにより、社員のモチベーションが維持され、これまで築き上げてきた企業文化が損なわれることなく次世代へと受け継がれていくことは大きなメリットと言えます。M&Aの場合、買収側の企業文化からの影響が大きく、従業員の離職に繋がるケースも見られますが、従業員承継であればそうしたリスクを大幅に減らせることが期待できます。

後継者の早期育成と実務適合性

従業員の中から後継者を選定できるため、経営者は後継者候補の実務能力や人柄を熟知した上で選べます。また、事業承継に向けて時間をかけてOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)や外部研修を通じて育成できるため、自社に適した経営者としての資質を磨き、会社の事業内容や商習慣、組織運営について深く理解した状態でバトンタッチが可能です。現場をよく知る後継者であれば、引き継ぎ後の経営もスムーズに進みやすく、事業の継続性も高まりやすくなると言えます。

従業員・取引先・金融機関からの理解と信頼

見知った従業員が社長となることで、社内の他の従業員や長年の取引先、そして主要な金融機関からの理解と信頼を得やすい傾向にあります。M&Aなどによる第三者承継の場合、新しい株主や経営者に対する不安や警戒感が生まれがちですが、従業員承継であれば「会社のことをよく知る人物が引き継ぐ」という安心感が広がり、事業の円滑な継続に繋がりやすいです。

親族経営に近い体制構築の可能性

従業員承継は、特定の従業員に株式を集中させることで、親族経営に近い、迅速で安定した意思決定体制を構築することも可能です。これは、会社のオーナーシップ(所有)と経営権を、会社のことをよく理解している内部の人間に委ねるという点で、多くのメリットを生み出します。もちろん、一括での株式譲渡だけでなく、株式を段階的に譲渡したり、経営権だけを先に移譲したりするなど、柔軟な承継方法を選べます。

従業員承継のデメリットと潜在的リスク:知っておくべき課題

多くのメリットがある一方で、従業員承継には注意すべきデメリットや潜在的なリスクも存在します。これらを事前に把握し、対策を講じることが成功の鍵です。

後継者の資金調達と個人保証問題

従業員承継の最大のハードルの一つが、後継者の資金調達です。会社の株式を取得するためには、相応の資金が必要となりますが、従業員がその全額を自己資金で賄うのは非常に困難なケースがほとんどです。

株式取得のための資金は、金融機関からの融資が一般的ですが、後継者個人の信用力や会社の財務状況によっては、十分な融資を受けられない場合があります。また、個人保証の問題については、先代経営者が負っていた銀行からの借入に対する個人保証を、後継者が引き継ぐ必要がある場合が多いですが、大きな精神的・経済的負担となり、従業員承継の障壁となることがあります。これらが原因となり、後継者選びが進まない事態に陥ることは少なくありません。

経営能力・経験不足のリスクと育成の難しさ

現場の実務に長けている従業員でも、経営者として求められるスキルや視点は全く異なります。例えば、会社によっては、経営戦略の立案、財務管理、リスクマネジメント、組織全体のマネジメント、法務・税務の知識など、多岐にわたる経営手腕が求められます。

「現場のプロ」が「経営のプロ」とは限らず、従業員としての経験が豊富でも、会社全体を俯瞰し、外部環境の変化に対応しながら意思決定を下す能力が不足しているケースがあります。また、そうした経営者の育成には、単なる業務知識の習得だけでなく、「経営者としての覚悟」や「リーダーシップ」といった資質を時間をかけて醸成する必要があります。この育成が不十分だと、承継後に経営が停滞するリスクが高まります。

先代経営者の影響力と経営改革の遅れ

従業員承継では、後継者が先代経営者の指導のもとで育ったケースが多いため、先代の経営方針や企業文化を強く踏襲する傾向にあります。これは企業文化の維持というメリットにもなりますが、同時にデメリットにもなり得ます。

変化の激しい現代において、時には大胆な経営改革やイノベーションが求められます。しかし、先代の影響が色濃く残ることで、新しい発想や改革が生まれにくく、時代の変化に対応しきれないリスクがあります。さらには、先代経営者が引退後も過度に経営に口出しをしたり、後継者が先代に依存したりする関係が続くと、後継者の自立的な経営が阻害され、成長機会を失う可能性があります。

株式分散化と将来の事業承継リスク

従業員承継では、株式の適切な管理が極めて重要です。株式が複数名の従業員に分散して承継されたり、承継後の管理が不十分だったりすると、将来的に新たな事業承継の課題が生じるリスクがあります。

後継者が引退する際に次の世代への承継が困難になったり、あるいは後継者となった従業員の家族が株式を相続するなどして、株式がさらに分散し、経営の意思決定が不安定になる可能性があるためです。事業承継は一度で完結するものではなく、数年後、あるいは数十年後に再び必要となるため、その持続性を踏まえた長期的な視点での計画が不可欠です。この点は、一般的に「家業」として次の親族へ承継するケースとは異なり、より計画的な株式管理が求められます。

親族からの理解と同意の難しさ

長年、家族経営を行ってきた企業の場合、親族以外への承継に対して、感情的な反発や理解が得にくいケースがあります。特に、株式の贈与や売却価格など、資産に関わる部分で対立が生じやすく、親族間のトラブルを避けるためには、承継計画の初期段階から親族への丁寧な説明と合意形成が不可欠となります。

従業員承継を成功させるための具体的な対策とポイント

デメリットやリスクを乗り越え、従業員承継を成功させるためには、計画的な準備と適切な対策が不可欠です。

適切な後継者選定と計画的な育成

後継者の選定は従業員承継の成否を分ける最も重要な要素です。単なる実務能力だけでなく、経営者としての資質、リーダーシップ、変革への意欲、そして将来的な年齢まで見据えた計画性で選定し、OJTに加え、外部の経営者研修、コーチング、異業種交流など多角的な視点で育成を進めましょう。

資金調達と個人保証問題の解決策

資金と個人保証は後継者にとって大きな壁となりますが、多様な解決策が存在します。近年は事業承継に関する融資制度や支援が拡充されており、日本政策金融公庫の事業承継・引継ぎ支援融資や、信用保証協会の保証制度を活用することで、資金調達のハードルは下がります。一定条件下では後継者が個人保証を負わない形での融資も検討されやすくなりました。MBO(マネジメント・バイアウト)を活用し、後継者が金融機関から融資を受け自社株式を買い取るスキームも有効で、ファンドの活用により、さらに資金面での対応を円滑に進めることも可能です。さらに、事業承継・引継ぎ補助金など、専門家費用を支援する制度も活用できます。これらの公的支援は、後継者の負担軽減に大きく貢献します。

株式・資産承継の計画と税務対策

将来のトラブルを避けるためにも、株式の承継は慎重に行う必要があります。株式の評価額を適切に算定し、税負担を軽減するための対策を講じましょう。相続税や贈与税の納税猶予・免除が受けられる特例事業承継税制の適用も検討できます。また、種類株式の活用、持株会社化、信託の活用などを検討し、将来的な株式分散化リスクを予め管理する仕組みを構築することで、次の世代へのスムーズな承継も視野に入れます。

承継後の組織・経営体制の構築

従業員承継はゴールではなくスタートです。承継後のスムーズな移行と事業成長のために、PMIの視点を取り入れましょう。先代経営者と後継者の役割を明確にし、段階的に権限を移譲することで後継者の自立的な経営を促します。新しい経営体制下での組織目標を共有し、従業員エンゲージメントを高める施策で組織文化の統合と活性化を図りましょう。

専門家との連携と情報収集

従業員承継は多岐にわたる専門知識を要するため、専門家との連携が不可欠です。税理士、弁護士、司法書士、M&Aアドバイザーなど、各分野の専門家と連携し、包括的な支援を受けられる体制を整えましょう。事業承継・引継ぎ支援センターなど、無料で相談できる公的機関も積極的に活用することをお勧めします。

まとめ

従業員承継は、会社の理念や文化を引き継ぎ、後継者をじっくりと育成できる魅力的な選択肢です。しかし、資金調達や後継者の経営能力、そして将来的な株式分散化のリスクなど、慎重な計画と対策が不可欠です。会社にとって従業員承継が本当に最適な選択肢なのか、メリットとデメリットを十分に比較検討し、不安な点は専門家に相談することが、成功への近道です。

私たちは、単なる仲介ではなく、数々の事業承継に関する経験に基づき、承継後の事業成長まで見据えた実践的な支援を提供します。

従業員承継に関するご不安や疑問、具体的な課題がございましたら、ぜひ一度、お気軽にご相談ください。

マガジンTOP