M&Aは利益の何倍?売却価格の目安・算定方法-企業成長支援- GDG
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事業承継M&Aを検討する際、株式譲渡価額が「利益の何倍になるのか」という疑問。EV/EBITDA 倍率法においては、目安として2倍~5倍程度(企業価値からネットデットを控除した株式価値)が参照されることがあります。IT業界では5倍~10倍、建設業界では2倍~3倍などと、業界によっても倍率が異なります。
倍率法(マルチプル法)
「倍率法(マルチプル法)」は、財務数値に「倍率」を掛け合わせ、企業価値や株式価値を算出する方法です。例えば、企業価値/売上高倍率、企業価値/EBITDA倍率(EV/EBITDA)、株式価値/当期純利益(PER)、株式価値/純資産倍率(PBR)などがあります。
企業価値と株式価値
企業価値とは、事業活動を行うために企業が持つ資産全体の価値を指し、金融機関からの借入金なども含んだ、その企業全体の価値を意味するのが一般的です。
株式価値は、上述の企業価値から、ネットデットと呼ばれる「有利子負債(借入金など)から現預金などを差し引いたもの」を控除して算出されます。M&Aで売り手が得る金額は、基本的に後者の株式価値が基準となります。
EV/EBITDAとは
倍率法の計算でよく使われる財務指標がEBITDAです。EBITDAとは「金利・税金・減価償却費・償却費控除前利益」と訳されます。EV/EBITDA倍率は、EBITDAの「何年分」が会社の「企業価値」に相当するかを示します。
なぜEBITDA倍率のような倍率法が、M&Aの実務で広く使われるのでしょうか。それは、将来のキャッシュフロー予測や割引率といった複雑なパラメータを必要とするDCF(Discounted Cash Flow)法などと比べると、倍率法がシンプルかつ取り扱いやすいためです。企業や業界が異なっても「EBITDAの〇倍」という共通の尺度で比較でき、直感的に価値を把握できる「使いやすさ」が、倍率法が多用される最大の理由です。
年倍法 (年買法) とは
年倍法 (年買法) は、時価純資産+のれん代=企業価値で計算されます。
のれん代は年間利益に一定年数分を乗じたもので、使用される年数は様々ですが、営業利益の2年分などとされることがあります。この年数倍(何年分の利益を掛けるか)が「年倍法」という名前の由来のようです。年倍法 (年買法) は、中小企業庁発刊の経営者のための事業承継マニュアルにおいて、「企業価値の算定方法」のひとつとして紹介されています。一方で、中小企業庁における調査では、以下のように、年倍法への留意点も発信されています。
”中小M&Aを進めるという観点から必ずしも否定されるべきものではないと考えられる。一方で、年買法等はあくまで取引価格決定のための値付けの手法であることから、企業価値評価とは区別されるべきものであり、年買法等のみの利用にあたっては年買法等の長所のみならず留意点についても把握する必要があると考えられる。”
経済産業省中小企業庁委託調査:令和3年度中小企業再生支援・事業承継総合支援事業より抜粋
バフェットも警鐘を鳴らす「EBITDA」
投資の神様として知られるウォーレン・バフェットは、EBITDAという指標に依存することの危険性を繰り返し指摘しています。彼は株主への手紙の中で次のように述べています。
“It amazes me how widespread the use of EBITDA has become. People try to dress up financial statements with it.”(EBITDAの利用がいかに広まっているかには驚かされる。人々はそれを使って財務諸表を飾り立てようとする。)
バフェットがこれほどまでにEBITDAを問題視するのは、EBITDAが「減価償却費」を利益に足し戻すことで、企業の収益力を誤解させるリスクがあるためです。事業を維持・成長させるためには、将来にわたって新たな設備投資(CAPEX)が必ず必要になります。その設備投資に伴って発生する減価償却費を足し戻すのはおかしいのでは、という主張です。
具体例で考えてみましょう。EBITDAが共に20億円のA社とB社があるとします。2社を単純に「EBITDAの5倍」という倍率で評価すれば、どちらも企業価値は100億円です。しかし、A社は事業を維持するために毎年10億円の設備投資が不可欠である一方、B社の設備投資は毎年1億円で済むとします。
A社: EBITDA 20億円 / 減価償却費 8億円 / 設備投資 8億円
B社: EBITDA 20億円 / 減価償却費 1億円 / 設備投資 1億円
この場合、会社が将来にわたって生み出す現金の額(フリー・キャッシュフロー)は、両社で異なります。買い手の立場からすれば、同じEBITDAであっても、手元により多くのキャッシュが残るB社の方が、投資回収の観点からは魅力的に映るのではないでしょうか。
キャッシュ・コンバージョンとは
関連するのがキャッシュ・コンバージョンです。これは、EBITDAのうち、どれだけの割合が最終的に企業が自由に使える現金になったかを示す指標です。この比率は、多額の設備投資が常に必要な製造業では低く、逆にソフトウェア産業のように設備投資が少ないビジネスでは高くなる傾向があります。M&Aの評価において倍率法を使用する場合、EBITDAとキャッシュ・コンバージョンの関係性を考慮し、将来にわたってどれだけの現金が本当に手元に残るのかを見極める視点も不可欠です。
M&Aにおける企業価値
スタンドアローン価値
スタンドアローンでの価値は、その企業が単独で事業を続けた場合に生み出す価値を指します。このスタンドアローン価値が、交渉の出発点となる売り手企業の基礎価値となります。
シナジー効果
もう一つが、M&Aの価格を大きく左右する買い手とのシナジー効果です。これは、売り手企業が買い手企業の傘下に入ることで生まれる「1+1が2以上になる」相乗効果であり、追加的な価値を生み出します。例えば、買い手の販売網を活用した売上向上(売上シナジー)や、仕入れ・管理部門の統合によるコスト削減(コストシナジー)がこれにあたります。
買い手は、このシナジー効果を見込んで、スタンドアローン評価額にプレミアム(上乗せ価値)を支払います。この、M&Aにおける実際の取得価額と、売り手企業の時価純資産との差額が、会計上の「のれん」として認識され、優れた技術力やブランド、そして明確なシナジーが見込める企業ほど、この「のれん」は大きくなり、結果として高い評価額が実現します。
取引価格は、価値の訴求力でも変わる
これまでに分析してきた様々な価値も、相手に伝わらなければ意味がありません。単に良い会社であることと、その良さが評価されることは、残念ながら必ずしもイコールではないのです。ここで重要になるのが、適切な情報開示と訴求です。自社が持つブランド力、技術力、顧客基盤といった無形資産、つまり「強み」を、客観的なデータや第三者にも理解できる説得力のあるストーリーとして整理し、買い手候補に的確に伝えるコミュニケーション戦略が、最終的な評価額を大きく左右します。M&Aのプロセスは、自社の価値を買い手にプレゼンテーションし、納得してもらう交渉の場でもあります。
需要と供給から考える、評価価額と譲渡価額の違い
M&Aでの取引価額は、究極的には需要と供給で決定されます。どれほど理論上の評価額が高くとも、売上が成長していようとも、需要が無ければ価値がつかない場合ことがあります。その逆もしかりです。需要が強い会社は、M&Aにおける価格は上がっていく傾向にあります。例えば、スカーシティー価値(希少性)などと言われることもありますが、特定エリアやセグメントにおいて大きなシェアを持っている会社の場合、M&Aにおける需要は高いものになるでしょう。こうした需給に及ぼす影響を予め整理したうえで、案件全体の作戦を考えることが必要です。
企業価値評価はアート
企業価値の評価は多様な要素から構成されています。売り手と買い手の組み合わせによって創出できるシナジー、競争状況、買い手の財務状態や資金調達コストなど、非常に多くの要素が組み合わさったものです。企業価値評価は理論とアートの組み合わせであり、実際に利益倍率だけで一本化されることは困難です。
多角的な視点こそが企業価値を最大化する
「利益の何倍か」という問いは、M&Aの価値評価における入り口に過ぎません。業界平均の倍率といっても、現実的には同じ会社は世の中に一つとしてありません。さらに、財務諸表という過去のスナップショットだけにとらわれず、ブランド力や顧客基盤といった未来の収益の源泉となる強みを言語化すること。そして、その価値を的確に訴求すること。M&Aの検討は、多くの経営者にとって初めての経験であり、ご不安な点も多いことと存じます。本記事の内容を踏まえ、ご自身の会社の状況について少し意見を聞いてみたいという方は、どうぞお気軽にご相談ください。
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監修者
宇納 陽一郎
グランド・デザイニング・グループ代表。早稲田大学卒業後、野村證券にて営業・投資銀行業務に従事した後、日清食品にて経営企画・M&Aに従事。その後、PE投資会社にて複数社での事業承継および新体制構築を経験。経営や事業承継の実体験を活かした事業承継支援を提供。㈱ウォーターフロント代表取締役、㈱ナルネットコミュニケーションズ取締役等を歴任。
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